爪の長さ

 このたびのソウル五輪で米国の陸上百メートル女子選手の長い爪が話題になった。
 中国では古来爪が長いとか、手が大きいとか、腕が長いというのは異相とされてきた。常人とは違った形体であるため、非凡な才能の持ち主か、または将来は傑出した人物になると目されたのである。三国志で有名な劉備玄德は、手を垂らせば膝を過ぎたというし、晋の武帝も、膝を過ぎる手の長さゆえに次期天子の座に坐ることができた。爪が長かったことで知られるのは唐代の詩人李賀で、彼は眉も左右がつながっていたらしい。
 男の場合有能異才と結びつくが、女の場合だとやはり美しさと結びつく。
 陳の高祖の妃は聡明で容姿美しく、手の爪の長さが五寸もあった。当時の五寸は今の12cmである。米国選手の爪は12cmもなかったと思うが、お抱えの化粧師が絵画のごときマニュキュアを施していた。驚異的な走力と目を見張る筋肉の選手を、何ともいえず女らしく見せていたのは、その長い爪であった。